◆11◆
 これは。
 
 
 汀のものではない汀の声がした。
 
 
 このにおいはおぼえている。
 
 
 汀のものではない汀の声で、神が独白していた。
 
 
 ああ、こうしていきをはきかけて、われのよりしろをみがいてくれた。
 
 
 そうだ、はなを、そなえてくれたな。
 
 
 おまえか。
 
 
 おまえだったか。
 
 
 ひとのこはすぐにそだつから、きづかなかった。
 
 
 このみは、おまえのものか。
 
 
 「いいえ」梢子は答える。
 
 
「その身体は汀のものです。だから、汀に返して。その代わり、ちゃんとあなたを祀ります。社も、依代も、あなたのために揃えるから、その身体を、汀に返してください」
 
 
 そうか。このみはすでに、おまえがよっていたか。
 
 
 「いいえ」梢子は再度答える。
 
 
「私は私。ただ、汀と共にいたいだけ」
 
 
 そうか。ひとは、そうだったな。
 
 
 ならばこのみは、このみにかえそう。やくそく、たがえるなよ。
 
 
 「必ず」梢子が頷くと、刃を持っていた腕がギリギリと上がり、そして脇へと下ろされた。
 
 
 われがとめねば、このくび、かっきられていたな。
 
 
「ありがとう」
 梢子は少しばかり苦笑した。
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