◆6◆
充電用のプラグを携帯電話に差して、汀は自身の両目を指先で揉む。
「そんな簡単に変わんないって……」
声を聞くだけで? 生憎、それで何かが変わるわけでもなかった。
なんだか癪だ。烏月の言葉を真に受けて電話をかけてしまった自分が馬鹿みたいだ。
「いてて」
目を揉んだせいで皮膚が引っ張られて、額の傷口が開いてしまった。深くはないが、刃物ですっぱり切られたわけではないから多少引きつるし、やけに赤く目立つ。
前髪で隠せないかと色々いじってみるものの、短く切られたそれでは、長さが全然足りなかった。
「うーん、仕方ないか……」
あの鬼と対峙してこの程度で済んだのは僥倖、と思っておく。梢子に咎められるくらいは甘んじて受けよう。なにしろ烏月がいなければ九割九分首が飛んでいたのだ。それを思えば小言のひとつやふたつ、安いものである。
烏月。千羽烏月。千羽党の鬼切り役。
鬼に成った大切な人を、その近しい人を切れるのかと訊いた時、彼女は鬼に成る前に救うと答えた。
それはごまかしだ。答えになっていない。
おそらく……彼女は切るだろう。
切れるから、そばに置いているのだろう。
いや、そばに寄り添っているのだろう。
それは覚悟だ。人としての覚悟だ。
喜屋武汀は、小山内梢子を切れるだろう。
彼女の近しい者を切れるだろう。
切れるから、そばに置かないし、そばに寄らないのだ。
それは非情だ。鬼切としての非情でしか、ない。
百人千人を殺されないために切る非情と、百人千人を殺させないために切る覚悟。そういう違いだった。
ギシギシと固い椅子が鳴る。汀は落ち着きなく身体を揺らし、椅子を鳴らしている。
小山内梢子が鬼に成らなければ良い。
彼女の近しいものが鬼に成らなければ良い。
己には、そうなった時に彼女たちを救う覚悟が、ない。